田舎の料金所

私は田舎の料金所で働いています。

料金所といえば、せっかくの楽しいドライブ旅行の最中に突然現れて旅行の邪魔をしてくる、といったようなことを思う人が多いでしょう。たかが数ドルのために車を止めなければいけないなんて、本当に面倒ですよね。

頭の中で料金所の写真を思い浮かべてみれば、きっと広い高速道路上で多くの車が通行料を払うために並んでいる、そんな風景になるでしょうか。そこで働くなんて、どれだけつまらない仕事なのか想像もつきませんね。

しかし、私が働いていた料金所は、そんなステレオタイプから程遠かったのです。

その料金所は、メインの道路から離れた、森の中を通る小さな道路にありました。料金所といっても、ただの小さな木造の小屋と、料金の書いてある看板、開け閉めのできるゲート、といった必要最低限のものしかない簡易的なものですが。ちなみに、通行料は25セントでした、1950年代からそのままの値段です。古屋の中にも、椅子と電球しかありませんでした。あたりは真っ暗で、灯りなんてありません。まあ、そんなところで私は一人で働いているんです。

なぜこんな田舎の道に、車がたくさん通るわけでもないのに料金所があって、しかも役所がいい給料を払って人を雇ってまでそれを維持するのか、きっと読者の皆さんは理解に苦しむでしょう。でも皆さんも、ここで一晩過ごせばきっとそのわけがわかります。この料金所がある理由、それはお金では買えないようなものを守っているからなのです。

私たちの街の中では、この料金所で働くことは名誉なことだと考えられています。しかし、料金所に関係することについて話すのは一種のタブーのようになっているのです。住人皆が、この料金所は呪われているということを知っています。

田舎町には、その地域独特の都市伝説があるというものです。大抵の場合、その伝説というのは皆作り話だとわかっていながらも、信じているふりをして、そういう話が苦手な人に教えて怖がらせる、というようなものに過ぎないでしょうが、私たちの街ではそうではありません。私たちは、”何か”を見てしまってもそれを一切語りません。知らない方がいいことだってあるのです。この道に人が入ってこないように料金所を作って新たな犠牲を増やさない、それが私たちにできる唯一のことなのです。

ところで、私たちの街は、ここらの他の街よりも相当うまくいっていると言っていいでしょう。道路はきちんと整備されてるし、学校だって、公立にしては相当レベルが高いです。失業者も一人もいません。

なんでこんなことをわざわざ書くかというと、私たちの街は、あまり裕福ではない地域にあるからなんです。集まる税金の額も高が知れているというのに、なんで私たちの街だけこんなにお金があるのか、少し疑問でした。もしかしたら、料金所絡みの件で政府はこの街を優遇しているのかもしれないと思っていました。馬鹿馬鹿しい話に聞こえるでしょうが、皆さんも私の仕事、そして直近の出来事についてよく知れば、きっとわかっていただけると思います。

料金所には、毎晩係員が1人だけ立つことになっています。毎週係員たちは公民館で打ち合わせを行います。打ち合わせは、毎回15分ほどで終わることが多かったです、先週の緊急招集の前までは。

緊急招集の後から、我々は毎日、長時間の打ち合わせをしなければいけなくなりました。理由は、この後お伝えするつもりです。

ここで、私の働いてた料金所と、その料金所のある道路の”ルール”をお伝えすることにしましょう。

ルール1:太陽が出ている間は、料金所ではほとんど何も起こりません。なので、日中に係員はいません。夜勤の係員は、(と言ってもほとんどの場合私なのですが)日が落ちる1時間前に料金所に入り、日が出てから1時間後まで料金所に居なければいけません。シフト中は、いかなる理由があっても料金所の外に出ることは許されていません。料金所までは、いつも街の保安官かその代理の人が車で送り迎えをしてくれるので、通勤手段の問題はありません。

ルール2:携帯、ラジオ、その他の電子機器や通信手段を料金所に持ち込むのは禁止されています。電気で動くもので、持ち込みOKのものは懐中電灯のみです。万が一、電子機器を持ってきてしまった場合、電源を切って、何らかの力によってまた電源が付くことがないよう祈るしかありません。電源がついてしまった場合、次の策はその端末を破壊することです。やり過ぎのように思えるかもしれません。でも、以前間違えて携帯を持ってきてしまった時は、携帯から突然聞こえてくる叫び声に耐えられずに、私はその携帯を1時間も経たない間に踏み潰して破壊しました。それ以降、同じ間違えは二度と犯していません。その叫び声がなんだったかは誰からも教えてもらっていませんが、前の係員もきっと同じ声を聞いていたのでしょう。

ルール3:たまに、車が料金所に来ることもあります。この料金所にたどり着いてしまう人は、皆混乱状態に陥っていっており、それに加え時には怒り、恐怖、人間不信などといった他の感情を表すこともあります。私の仕事は、彼らを通すか、それともUターンさせて元の道に戻すかを決めることです。彼らを落ち着かせ、そしてできるだけ安心できるようにさせてあげることが必要です。落ち着いた後、通行料を払うようにお願いをします。そうすると、2パターンのうちどちらかのことが起こります。

1パターン目は、彼らが何も反応せず、質問もせず普通の25セントコインを渡してきた場合です。この場合、料金所のバーを下げたままにして、彼らを元の道に戻さなければなりません。どんな手を使ってでも彼らを料金所から遠ざける必要があります。もし、彼らが脅迫してきたり、バーを突破しようとしたりするなどということがあれば、警察を呼ぶと警告します。と言っても、実際には携帯がないので警察を呼ぶことは不可能なのですが。ただし、最近ではこんなことは少なくなっています。最近のナビはこの道を案内しないし、ここら辺の人は皆この道路を使ってはいけないと知っていて、加えて外部の人間がこの道路のことを知るというのはおかしいので。それでも、たまには道に迷ったドライバーが来ることもあります。彼らの多くは指示に従ってこの道を離れて、近くの街に戻ります。このパターンの人は、バーの先まで行くことはありません。

残念ながら、2つ目のパターンが一番一般的です。この場合、彼らは突然何かを理解したような表情になります。その後、何かを思い出したかのような顔で、ゆっくりとポケットに手を伸ばし、黒いコインを出してきます。このパターンの人たちは、バーを通過するために、黒いコインが必要なことを知っているのです。ある人は、喜んで運命を受け入れたり、ある人は号泣したりと様々ですが、バーを上げた後は皆その先の道を進み、角を曲がると、二度とこの世に現れることは無くなります。

働き始めて最初の数ヶ月は、この人たちはいったい誰なんだと私は困惑していました。彼らは何を知っていて、どうしてこの黒いコインを手に入れたのか、そしてこの黒いコインは何なのかと様々な疑問が浮かんできました。私が知っていたのは、コインをもらったらそれを料金所の中に置いておいて、次のシフトの人が回収できるようにしておかなければならないということだけでした。しかし、シフトが終わった後にたまたま地域のニュースを見ると、あることがわかりました。

そのニュースでは、昨夜交通事故で亡くなった男について話されており、その男の顔写真がテレビに映りました。その顔は、私が数時間前に見た、困惑した顔で私にここはどこで何が起こっているのかを尋ねてきた男と全く同じだったのです。シフトの間、私が彼に通行料を払うよう尋ねたとき、彼は一瞬固まり、ゆっくりと震えながらコートのポケットを手で探り、黒いコインを出し私に渡しました。そして、ハンドルを握り前を向いて、バーを通過し、その先の角を曲がっていきました。彼は自分がどこに行かなければならないのか、知っていたのです。

あの日の朝、リビングで座りながら、数時間前に起きたことを考えていると、あの男を最後に見た人間は自分だった、ということに気づきました。。今までに何人も見てきた人々、そしてこれからも見ることになるであろう何人もの人々と同じように、あの男はすでに死んでいたのです。その時、あの道路は常世につながっているのだ、とわかりました。

ルール3に関してですが、今までに死者がこの料金所を通るのを止めた人は誰もいないと思います。誰もそんなことはできないのでしょう。あまりにも非現実的なことが目の前で起きているので、死者が来た時には流れに身を任せて言われた通りの仕事をすることが精一杯なのです。でも、生きている人間を通してしまったことは、残念ながら過去にありました。

数十年前、ある観光客が私たちの街を通っていました。その頃は、まだ携帯などもなく道を調べることもできなかったので、地図で確認するしかない時代でした。料金所のある道は地図にも載っていないので、どうして彼がこの道に来たのかはわかりませんが、何らかの方法でこの道の存在を知り、近道かもしれないと思い来たのでしょう。

彼が料金所に近づいた時、料金所の係員は引き返すように伝えたのですが、彼はそれを聞き入れず、係員に暴力を振るい、ゲートのバーを力づくで開けてそのまま通ってしまいました。こんなことは、存命である歴代の係員が知る限り起きたことがなく、この後何が起こるかは誰にも分かりませんでした。この時代の人々は、料金所のルールのことは知っていたものの、ルールを破ったらどうなるかに関しては知らなかったのです。しかし、ルールを破った際の代償を皆が知るのに時間はかかりませんでした。

次の日の夜、その男はまた同じ車に乗って料金所に来ました。料金を支払うように言われた時、今回は黒色のコインを係員に見せました。昨晩のことは完全に忘れてしまったようで、ここを通らなければいけないことは分かっているものの、その理由は知らない様子でした。この男はこれ以降20年ほど毎晩料金所に来て、なぜここにいるかわからず困惑した表情で係員にコインを渡し、料金所を通過していくことを繰り返しました。彼は歳を取らず、見かけも毎晩全く変わりませんでした。1日前の夜に言ったことと一言一句同じことを係員に言うことさえありました。この料金所に何回も来たことがあるようなことを仄めかす時もありました。誰も彼のようになってほしくないと思います。死んでいるが、天国にも行けず、そしてなぜ料金所にいるかもわからず毎晩同じことをし続けるなんて。この話を聞くたび、私は自分の仕事の重要さを思い出します。

ルール4:夜中に、何かが大きなものが森の中を動いているような音を聞くことがあります。それは森の中から出てくる時もあれば、道路を歩いている時もあります。怖がらないようにしてください。それはあなたに危害を加えようとしているわけではなく、むしろ真逆です。これがいかに信じ難いことかはわかります。いずれにせよ、彼らが来たらバーを開けて通してください。彼らを最初に見た時のことを覚えています。その時は、道路から馬が歩く音が聞こえていて、その音は料金所の方に近づいていました。私は好奇心から立ち上がり、懐中電灯を持ちました。誰かの馬が歩いてきているのではないといいなと思いました。このような事態で何をすればいいのかは教わっていませんでした。懐中電灯で道路を照らした時、私は目の前の光景を見て心臓が止まるかと思いました。オスのヘラジカが、早足で近づいてきていたのです。もちろん、私はこのことについてあらかじめ用心しろとは言われていたものの、詳しいことは聞かされていませんでした。私が知っていたのは、ヘラジカが料金所に来る可能性があること、そしてもし来た場合にはバーを開け通すことだけでした。ヘラジカが肩のところまで3mもある巨体であることや、毛皮が真っ黒で、懐中電灯がないと真っ白なツノ以外の部分は全く見えないことなどは全く知りませんでした。ヘラジカの体の部位で、遠くからでも見えるのはツノを除けば目だけでした。目は暗闇の中で白く輝いていました。私は叫んでブースの中に引っ込み、この料金所を放置して暗闇の中を逃げたい気持ちでした。幸運なことに、ヘラジカは歩くペースを下げて料金所のバーの前で止まってくれました。これで心が落ち着木、私はゆっくりバーをあげて、ヘラジカがバーを通るのを見ていました。そのとき、私は馬の頭に手綱と鞍があることに気づきました。私はそれを追いかけ、ヘラジカと同じ目がもうひとつ、私の頭上にそびえ立っているのを見ました。私はまた叫びましたが、ヘラジカの上に乗っていたもの、もしくは人が何であれ、それが私と目を合わせてくれたということに気づいたので、少し落ち着いきました。この人影も非常に暗く見えました。ヘラジカは、車でここを通る人たちと同じように、道を進み、曲がり角を越えて見えなくなった。

この出来事から30分間、震えが止まりませんでした。言うまでもなく、誰もこのヘラジカについての詳細を教えてくれなかったことについて少し怒っていました。シフトの後、このことについて不満を言うと、やっと詳しいことを教えてくれました。どうやら、この”ハンター”と彼のヘラジカはもう長いこと料金所に出現するようです。歴代の係員も皆このハンターを見たことがあり、ハンターのいない時代を知る人はもう生存していないというくらい長くこの近辺に現れているのです。この奇妙な道路や料金所があるのと同じくらい前から、あるいはそれ以上前から、彼らはここにいたのではないかという説もあります。わかっているのは、彼らは、他の人々のようにこの道路に縛られていないということです。町役場には、1919年の真夜中に猟師とその馬が町を走り抜けたことを記した文書があります。今日に至るまで、数人の住民が夜間運転中にヘラジカを目撃しています。なぜヘラジカの背中に乗っている人影をハンターと呼ぶのか不思議に思うかもしれません。私たち係員は彼をそう呼んでいます。彼とヘラジカは、よく死体を引きずってブースにやってくることがあるのです。死体といっても、動物や人間のものではありません。それは、ひどい悪夢に出てくるような醜いもので、背筋がゾッとすると同時に吐き気がするようなものです。あるいは、宗教的な文章で終末の日について語るときに出てくるようなものです。ハンターはこれらの死体を道路の曲がり角のところまでに引きずっていきます。確かなことは何もわかりませんが、私の考えでは、彼は死体を死後の世界か冥界のようなものに連れて帰っているのでしょう。もしかしたら、料金所にやってくる死者が曲がり角を曲がったときに行くのと同じ場所なのかもしれないし、道のどこかにさまざまな場所への通路があるのかもしれません。私には本当のところはわかりません。

他の係員や、ハンターとヘラジカについて知っている人、そして私もですが、彼らは私たちを守るためにここにいるのだと皆思っています。そのハンターが連れて行くものが何であれ、そもそもそれらは最初からここにあるはずのないもので、ハンターは物事を正しい状態に戻すためにここにいるのでしょう。

前置きはここら辺にして、そろそろ本題に入りましょう。この街の人々は、起こったことを人に話さないことを好んでいる、ということを前に説明したと思います。私も基本的にはそれに賛成です。自分たちのことを外の人に言いふらすのは好きではありません。世間の注目を浴びたくないのです。しかしながら、今回の件に関しては、残念ながらこれを広める以外に選択肢がなかったのです。それは、2週間ほど前、私のシフトの時に始まりました。

その日は、死人も生きている人もゲートに来ることはなく、平和な夜でした。唯一ゲートに来たのは、前にも説明したいつもの男だけでした。その男が去った後は、数時間静寂に包まれていたが、少しするとゆっくりとした足音が聞こえてきました。もう足音に恐怖を感じることは無くなりました。ハンターとヘラシカのコンビはもう何回も見ているので、彼らへの恐怖心は消え、それどころか、今では彼らがこの世にあるべきでないものを処分してくれていることに感謝しています。

私が唯一恐れているものは、彼らが引きずって持ってくるものです。今夜も例外ではありませんでした。彼らはゲートに近づき、止まりました。ゲートを開ける前に、私は懐中電灯で彼らが引っ張っている縄を照らしました。その縄には恐るべきものが繋がっていました。その縄の端は、巨大なひづめに結びつけられていたのです。その蹄は、鹿のような動物の下半身についているようなものでした。懐中電灯を照らしながらその動物の胴体の方に動いていくと、それはただの鹿でないことがすぐにわかりました。足は鹿のように見えるのですが、上半身は赤と青のストライプのピエロスーツを着た人間のもので、袖は手首のところで千切れ、そこから指の代わりに爪のついた黒ずんだ長い手が突き出ている、鹿人間といったものだったのです。最もグロテスクだったのは頭部でした。鼻と口は頭の他の部分と同じように、青白い人間のような皮膚で覆われているのですが、形は鹿の頭なのです。半開きの口からは血が滴り落ちていました。耳も同じように、人間のものと同じ青白い色と質感ですが、形は鹿のものでした。まるで誰かが人間の耳を引き伸ばし、気持ちの悪い形に変形させたようでした。頭のてっぺんには赤と青のジェスター帽をかぶっていて、その上には鹿の角が生えていました。私はその獣を見て一瞬固まってしまいましたが、早く彼らを通せばこれ以上この獣を見なくて済むと思い、気を取り直してバーを開けました。すると、彼らは道路に沿って、ゲートを通り過ぎるまでトボトボと歩き続けました。彼らが私の横を通った時、また先ほどの鹿人間が目に入ってしまいました。道路には血の筋が続いていました。彼らが料金所を完全に通り過ぎる前に、私は懐中電灯で彼らが引きずっている獣の火をもう一度確認しました。まぶたは開いていて、その下に黒と茶色の目が見えました。そして口を開け、苦痛に満ちた大きな鳴き声をあげた後に、鹿人間は身を乗り出して蹄を縛っている結び目を引っ掻いたのです。わずか数秒でロープは切れ、鹿人間は立ち上がろうとしていました。

しかし、目の前のヘラジカが強烈なキックで鹿人間の頭を殴ったため、鹿人間は立ち上がることができませんでした。一瞬気絶したように地面に倒れ込んだ鹿人間の口から、歯と一緒に血が飛び散りました。回復するまでの間、猟師はヘラジカの向きを変え、鹿人間と正面から向き合いました。

私は料金所から逃げ出し、道路の横の木の影に隠れて戦いを見守りました。ヘラジカは鼻から息を出し、唸り声を上げ始めました。そのうなり声は鹿人間の鳴き声よりも大きく、深いものでした。ヘラジカが息をするたび、私の胸にもその振動が響いているように感じました。鹿人間はついに立ち上がり、ハンターとヘラジカを見つめ返しました。立っている際の身長は、鹿人間の方が高いものの、全体的に見ればヘラジカの方が大きいのは明らかでした。ヘラジカは頭を下げて鹿人間に突進しました。ヘラジカの突進が当たる前に、鹿人間は、ヘラジカの背中に乗っているハンターを引っ掻こうとしたが、それは失敗に終わりました。鹿人間はヘラジカの角で地面から持ち上げられ、その上に木が倒れ込んできました。ヘラジカは一歩後退して向きを変え、その間にハンターが鹿人間の頭に新しいロープを投げつけました。ヘラジカは新しいロープを持ったハンターとともに鹿人間に突進していきました。今度こそ先の角を曲がって、この鹿人間を葬れると思っていたのでしょう。しかし残念なことに、鹿人間はまだ意識があり、再びロープを爪で切り裂いたのです。鹿人間は時間を無駄にすることなく、森の中へと突進していきました。ヘラジカに乗った狩人もそれに続き、ほんの一瞬で、ふたりの姿は見えなくなりました。

自分の息が荒くなっていることに気づいたのは、騒動が終わり辺りが静かになった後でした。勇気を出して料金所に戻るのに、1時間もかかってしまいました。料金所に戻ると、鹿人間の歯が道路に落ちているのに気がついたので、それを拾いました。幸運なことに、残りのシフトの時間には何も起こることはありませんでした。そして残念なことに、ハンターが鹿人間を連れて戻ってくることはありませんでした。日が出ると、保安官の人が私を料金所に迎えに来てくれました。私は、保安官に緊急ミーティングの行われている市民会館に急ぐように伝えました。道中、私は関係者全員に市民会館にできるだけ早く来るようにと連絡しました。会議で、私は全員に鹿人間の歯を見せ、何が起こったかを説明しました。意見はさまざまでした。

他の係員経験者は誰もこのようなことを経験しておらず、これから何が起こるか分かりませんでした。会議では、取り敢えず一週間ほど様子を見ることに決まりました。丸々1週間ハンターとヘラジカが現れないということはないので、皆来週か再来週にはハンターたちが鹿人間を捕まえ、事態は収束すると思っていました。しかし、それは甘い見立てでした。

次の日、隣町であるビデオがアップロードされました。そのビデオは、車を運転している男性が録画したもので、ビデオには鹿の角が一対、木の上に突き出ているのが映っていました。その数日後には、別の動画がアップロードされました。これは、夜中に外の笑い声で目を覚ましたという女性が撮影したものです。ビデオの途中には、建物の2階の窓の外に角と帽子の一部が写っていました。録画していた女性はそれに気づかなかったものの、コメント欄には気づいている人がいました。先週には、遠くの州の誰かが、丘の上の空き地にある木々の間にいる黒いヘラジカの粗い写真をアップロードしました。私が知っているだけでこれだけの動画があるのですから、実際はもっと目撃した人がいてもおかしくありません。

これで、なぜ我々が毎週会議をしているかがご理解いただけたでしょう。パニックになっているのは我々だけではありません。町のあちこちに見知らぬ人たちが現れるようになりました。彼らは街に溶け込もうとしていますが、目立つのです。彼らはバーや食堂に現れては会話を始め、最近このあたりで見かけたものを尋ねたり、料金所や見知らぬ道について尋ねたりしてきます。

先週くらいから、彼らは一般人のふりをするのをやめて、露骨に調査をするようになりました。政府の黒塗りのSUVが街中の駐車場にたくさんいます。我々は料金所に関するあらゆる文書や記録と共に鹿人間の歯も役場に保管していましたが、全て何者かに取られてしまいました。どうやら起こるはずでないことが起こってしまい、我々以外にもそのことに気づいている人がいるようです。昨夜、私はシフトではありませんでしたが、担当だった係員が会議で色々と報告してくれました。FIBが料金所に来て、一通り見て回ったようです。FBIも、ここの料金所を通ってはいけないということを知っていました。FBIにまでこのことが知られているとは思っていませんでした。FBIが私のところに来るのはもう時間の問題です。その時が来たら、FBIにも真実を伝えようと思います。本当はこのことは町の秘密にしておきたかったのですが、すでに魔物は放たれてしまいました。FBIの前に、せめて皆さんに話しておきたかったのです。みなさん全員が、何が起こっているかを知っておくべきです。

私は、今後も係員としての仕事を続けます。それが私にできる唯一のことです。もちろん、これからもできる限り鹿人間に関する動向は追っていくつもりです。集めた情報からの推測に過ぎませんが、鹿人間はまだ捕まっていないようです。早く捕まることを祈るばかりです。鹿人間のいる間は、もし裏庭で変な笑い声を聞いても、決して外に出ないでください。

出典;https://www.reddit.com/r/nosleep/comments/1cz6eba/i_work_at_a_tollbooth_on_a_lonely_country_road/

死の町

“死”がドアを叩く時、我々は叩き返す。

田舎の街に引っ越してきて、俺の頭の中は小説のアイデアでいっぱいになった。家は小さくて質素だけど、シンプルさと飾り気のない家具に囲まれていると、色々なストーリーが浮かんでくるものだ。

「ここで最高の小説を作るぞ!」と自分に誓った。何年もの間、孤独に耐えながら物書きをしてきたけど、それがやっと報われたんだ。どういうことかって?

ついに俺の小説が出版社の目に留まって、出版の支援をしてくれることになったんだ。

せっかくこんなにいい街に来たんだから、生産的なことをしようと思って、着いてしばらくはずっと執筆に時間を費やした。書き出すと止まらなくて、一気に1章分を書き切ってしまった。気づけば外はもう夕方になっていた。

飯でも食うか、と独り言を言い、俺は随分仕事が進んだことに満足して立ち上がった。それで、街をぶらぶらして、いい感じの飯屋があるかどうかを探すことにした。家を出るとすぐに、小柄なお婆さんがいた。そのお婆さんは目を輝かせてこっちを見て、「あら、あなたがこの町の新しい住人ね」と話しかけてきた。

「私はポリー、お隣さんよ」

ポリーには、俺の死んだ婆ちゃんのような面影があった。ポリーの服の匂いを感じ、愛情深い目を見ると心が安らぐような気がした。俺は自己紹介をして、もしよければ時間があるときにお茶でもしませんかと尋ねた。ポリーは”いつでも大丈夫よ。”と言ってくれた。

「この辺に良いレストランはありますか?」と、俺はポリーに聞いた。

すると、ポリーはいきなり困惑した顔に変わり、そしてすぐ哀れみの表情を俺に向け、首を振って、「今はどこも開いていないわ。家に戻って鍵をかけた方がいいわよ。もし何か食べたいなら、今夜は私の家に泊まってもいいわ。大歓迎よ。」と言った。ありがとうございます、と返事をしようとして彼女の方を向くと、なぜか彼女は急いで俺の隣の家に入って、家の鍵を閉めていた。正直、ちょっと戸惑った。なんでポリーは俺を泊めようとしたんだ?なんで俺が返事をする前に自分の家に戻っちゃったんだ?まあ、老人ってのは少し変なところがあるものか、とその時は思った。

それで街の散策を続けることにして、狭い通りを歩いてると、通りに面してるドアが全て閉まっていることに気づいた。しかも、かなり長い間散策しているのに、人を一人も見かけない。やっと運よくレストランの看板を見つけて、そっちの方に行って入口までたどり着いたが、そこもドアが閉まっていた。

「おいおい、7時なのにもう閉店かよ」とため息をついて、がっかりして帰ろうとしたとき、地面に「三回ノックして自己紹介してください」という看板が落ちているのを見つけたので、ノックしてみることにした。ノックすると、中からノックし返す音が聞こえてきた。どうして中の人がノックし返してくるの?なんでドアを開けてくれないの?と多くの疑問が頭を駆け巡った。

「ウェイドと言います、何か食べられるものはありますか?」と俺はドアに向かって言ってみた。

するとドアが少し開いて、小さな男の子が顔を出した。

「何をしているのですか?」と、男の子は俺に心配そうに尋ねてきた。

少しお腹が空いていて、何か食べ物が欲しいと伝えると、彼は困惑した表情のまま首を振った。

「ダメです。家に戻って鍵をかけてください。さもないと、あなたの想像力が追いかけてきますよ。」と冷静ながらも、俺を急かすような口調で言った。

想像力?こいつは何を言っているんだ?

俺が困惑した顔をしていると、男の子はは何かに気付いたようだった。

「あなたは新しい住人ですね。この町は呪われているので、急いで家に戻って鍵をかけてください。そうしないと、想像力に取り憑かれますよ。頭を信じてはいけません。戻るのです。そして、誰かがドアをノックしたら、ノックし返すのです。」と言い、すぐにドアを閉めた。

俺はしばらくそこに立ち尽くし、それから笑った。呪いだって?この町は本当に物書きにとってまたとない場所だと思った。普通の住人も作り話をしてるのだから。ドアを閉めるのは地域の文化なのか、それとも本当に呪いを恐れているのかが俺は気になった。多分本当に呪いを恐れてるのだろう、なんだってここは現代的な町ではないのだから。

ふと空を見ると、これから嵐が来そうなような空模様だった。風が突然強くなったので、外食はやめて夜は家でラーメンを作るくらいが一番良いと思った。急いで家に戻った。自分の家がある通りに入ると、あたりは真っ暗で、どの家も明かりがついてなかったので、電話を取り出して懐中電灯を点けた瞬間、俺の心臓は止まりそうになった。ポリーの家のドアを、大男が叩いているのが見えたのだ。しかし、俺の目が光に慣れるとその大男はすぐに消えた。唯一、その男には目がないことがわかったが、大男はすぐ消えてしまったので、それ以外のことはわからなかった。自分の心臓はバクバクだったが、あたりはシーンとしていた。なんとか勇気を出して笑おうとするのにも時間がかかった。少し時間が経って、「あんなところに人がいるわけない、馬鹿馬鹿しい」と俺は気を取り直して家に戻った。

家に帰ってドアを閉めると、テーブルの上に執筆中の自分のミステリーの小説が置いてあった。さっきの経験のおかげで、たくさんの新しいアイデアが浮かんできて早くそれを書き留めたい気持ちでいっぱいだったので、思わずニヤついてしまった。でもまずはお腹を満たさないと、大男に殺される前に腹が減って餓死しちまったら元も子もないと思って、俺はラーメンを作り始めた。もう少しで作り終わるというときに、ノックの音が聞こえた。ノックを聞いて、身の毛がよだつような思いがした。そのノックは、普通のノックとはかけ離れていた。

“こん、こんこん、こん、こんこんこん”

偶然だよな?俺の聞いたノック音は、俺が書いた小説の中で主人公がする特徴的なノックの音と全く同じだったのだ。小説を書いているときに想像していたビートとリズムと一寸の違いもない。

「誰だ?」と俺は尋ねたが、返事はなかった。

その時、俺はふと少年の言葉を思い出した。「誰かがドアをノックしたら、ノックし返すのです。」

でも、本当にノックし返すべきか?呪いなんてものは現実的じゃない。ドアの向こうに何かががいて、その何かはノックをし返すことを望んでいるなんてことを信じるほど俺は馬鹿ではなかった。でも、心の中ではノックをし返さないと大変なことが起こると信じている自分もいた。ノックをし返したい気持ちは強かったが、俺はしなかった。

“ノックをし返さないの?大丈夫?”と声が聞こえた。その声は、他のどの声でもなく、俺の小説に出てくる主人公の娘の声だったのだ。主人公の娘のシーンを書いていたときに想像した声と全く同じだ。作中で彼女は殺されてしまうのだが、、、でもなんでこんなことが?恐怖と混乱が頭の中を支配して、俺は何もすることができなかった。

「開けて」と少女の声が外の嵐の中で響いた。

俺はただそこに立ち尽くした。体は動かなかった。その時、ドアが壊されて、俺は彼女の姿を見た。俺が頭で想像していたままの姿だった。

「読者は私を殺した犯人を知りたがる。それが物語の一番重要なところよね?」彼女は泣きながらも笑った。「でも読者はどうせ気づかないのよ。犯人はあなたなの。お前が私を殺したんだよ!」俺は凍りついた。動けず、話せず、呼吸もできなかった。息が詰まって、地面に倒れ込んだ。息をしようとしても、空気が入ってこない。その時、「彼を放して!道連れは私にして!」という弱い叫び声が聞こえた。振り返ると、ポリーが少女の背後に立っているのが見えた。ポリーはとても怖がっているように見えた。少女がポリーの方を振り返ると、ポリーは息ができなくなり、俺は解放された。俺は深く息を吸い込んで立ち上がったが、ポリーはもうすでに死んでいて、少女はいなくなっていた。

その日以来俺は夜に外出していない。そして、“死”がドアを叩く時、我々は叩き返すのだ。

ある通報

以下は、緊急通報司令室への電話の文字起こしである。

司令室: 911です、どのような緊急事態ですか?

通報者: こんにちは、私の名前はジェシカ・[機密情報]です。ちょっとどうやって説明すれば良いかわからないんですけど、前庭に困っていそうな女の人がいるんです。

司令室: その方は怪我をしていますか?

通報者: 怪我はしていないみたいです、女の人は赤ちゃんを抱えていて、年配の女性がその人の隣にいます…多分女の人の母親かな?この雪嵐の中で、帽子も手袋もしていないのが心配で…

ディスパッチャー: 分かりました。住所はどちらですか?

通報者: [機密情報]

司令室: [機密情報]と[機密情報]のどちらに近いですか?

通報者: [機密情報]の北に約半マイルです。

司令室: 分かりました。かなり田舎の方ですね?

通報者: ええ。あの、私、玄関のところにいるんですけど、あの人たちを中に入れてあげたほうがいいと思いますか?家の方を何度も見ていて…赤ちゃんを抱えている方の女の人、何かがおかしいような気がして。

司令室: その方は取り乱しているのですか?

通報者: そういうわけではないんですけど、彼女の笑顔が変なんです。眉が上がっていて驚いたような表情をしてるんですけど…狂気じみているというか、お腹が減ってるのかな?うーん、、、バカみたいな話だってのはわかってるんですけど。

司令室: もしもし、すみませんが-

通報者: え、、、なんてこと、、、

司令室: どうされましたか!?

通報者: あの人たち、キャッチボールをしています!

司令室: え?

通報者: キャッチボールをしてるんです!なんてこと!嘘でしょ…[不明瞭]

司令室: ジェシカ、深呼吸をしてください。聞こえますか?彼女たちはボールか何かでキャッチボールをしてるんですか?

通報者: 赤ちゃんです!赤ちゃんでキャッチボールをしているんです!何かが赤ちゃんに繋がっています、ロープみたいな…え、ほんとに… まさか… へその緒だ…

司令室: 彼女たちは赤ちゃんを投げているんですか?

通報者: そうです!赤ちゃんを投げ合っているんです!まるで物のように…信じられない!どうすれば…

司令室: 非常に重要ですのでよく聞いてください。絶対にその人たちと直接話さないでください。状況が悪化する可能性があります。警察官が向かっていますので、その間、状況を報告してください。できますか?

通報者: はい。あの人たちはまだ赤ちゃんを投げ合っていて…こっちを見て笑っています。年配の女性も。あの笑顔には何か不自然なものがあります。あの笑顔を見ると寒気がするんです。さっき彼女が手に何か光るものを持っていたのを見たんです…ナイフか銃かもしれません。それをコートにしまったんですけど…

司令室: ドアに鍵はかかっていますか?

通報者: はい。私は玄関にいます。裏口も閉まってるはずです。夫が出て行くときに閉めたはずです。

司令室: 裏口が閉まっているか確かめてください。いいですか?

通報者: わかりました。今行きます。嵐のせいで全ての明かりが消えているので、ちょっと時間がかかるかもしれないです。

司令室: 大丈夫です、ジェシカ。このまま電話を続けて、無事に乗り切りましょう。

通報者: わかりました。ありがとうございます。よし。

通報者: 裏口に着きました。閉まっていました。今から玄関に戻ります。

司令室: よくやりました、ジェシカ!素晴らしいですよ。

通報者: 玄関に戻りました。ああ…

司令室: 何が起こっていますか?

通報者: あの人たちの顔、血で汚れている、、、。二人とも。

司令室: その血はどこから来たのか分かりますか?

通報者: 若い女性がまだ赤ちゃんを抱えています。赤ちゃんが無事かどうかは分からない。オーマイゴッド、信じられない!自分達の顔に血で何かを書いているみたい。Cのような形か、鎌のような形か何か。それが二人の額に描かれています。そして若い女性が…ああ、いやだ…

[嘔吐音]

手を舐めています!

司令室: 赤ちゃんが無事かどうか分かりますか、奥様?

通報者: 何も聞こえません。見えるのは、若い女性がまだ赤ちゃんを腕に抱えていることだけです。

通報者: ああ、どうか…信じられない

司令室: どうしましたか?

通報者: サンルームの窓を少し開けっぱなしにしていたのを思い出したんです、、、ストーブが近くにあって暑くなりすぎていたから、、、

司令室: その窓は人が入れるような大きさですか?

通報者: 小さいけれど…下の方にあるので。そうですね、入れると思います。

司令室: 今すぐその窓を閉めに行ってください、ジェシカ。大丈夫ですか?できますか?

通報者: はい。行きます。ああ、なんてこと。あの人たち、家の周りを歩いています。どうして私の動きがわかるの?家の中の明かりは全て消えているのに!

司令室: 落ち着いてください、ジェシカ。いいですか?

通報者: 歳の女の人とまた目が合いました – まだ私を見つめてます!どうして目が合うの?どうして私の居場所がわかるの?

司令室: 深呼吸をして、ジェシカ。落ち着いて。

通報者:サンルームに向かってるところです!廊下を歩いてます、もうちょっとです。

司令室: 警察官がそちらに向かっています。到着まであと3〜4分です。サンルームの窓を閉めたら、一番安全な部屋に閉じこもってください。トイレ、寝室、どこでも構いません。一番鍵がしっかりしている部屋に入ってください。

通報者: 分かりました。

司令室: 廊下からその人たちが見えますか?

通報者: 窓はあるんですけど、姿は見えません。雪の上に足跡があるのは見えます。裏庭に向かってるみたいです。

司令室: もう少しです。あと数分の辛抱です。

通報者: 分かりました。分かりました。サンルームに着きました。

ディスパッチャー: 窓を閉めましたか?

通報者: 閉めようと – [不明瞭]

ディスパッチャー: もしもし?

通報者: あの人たちが入ってきます!いや!助けて!

ディスパッチャー: 武器を持った女性ですか?誰が入ってきていますか?

通報者:違う!

ディスパッチャー: 赤ちゃんを抱えた若い女性ですか?

通報者:違うわ、赤ちゃんよ!。赤ちゃんが這って入ってきてる、、、ああ、いや…いや…

ディスパッチャー: もしもし?

通報者: [悲鳴の後、赤ちゃんの泣き声、そして鼻歌の子守唄が聞こえる]