キャピングカーで生活してる。昨夜、子供達に窓を叩かれた。「ナカ二イレロ」という声が聞こえる。

どれだけの時間が残されてるかもわからない。バッテリーは14%。エンジンをかける勇気もない。かけたら、やつらに聞こえる。被害妄想だって思うかもしれないけど、あなたたちはやつらを見てないでしょ。もしかしたら見たことがある人もいるかもね。もしいたら教えて。ここからどうやって逃げればいいか、教えて。お願い。

私は一人で旅をしてる。その様子を動画にしているの。チャンネルはまだ小さくて登録者は1万2千人くらい。定期的に動画を投稿してる。電気も通っていないようなキャンプ場、バンの改造の方法、一人旅のコツとか、そういう感じの動画。街には近づかないし、人がよく行く場所も避ける。人がいなければいないほど、安全だと感じるの。

いや、安全だと感じていた、と言うべきかしら。

今夜、私はアイダホの林道の脇に車を停めている。最寄りの町から何マイルも離れた場所よ。叫んでも誰にも聞こえないような場所。ちなみに、こういう場所で大声で叫んで、その後の静寂を味わう動画も投稿したことがある。つまり、完璧な場所だったの。窓を叩く音がするまでは。

一度だけ、静かなノックが聞こえた。ドアじゃなく、窓から。

私は凍り付いた。時刻は深夜1時過ぎ。森は静かで、風もなければ動物の鳴き声もしない。私のバンは目立たないようにしている。一人旅の女性だとは絶対にわからないようにしているし、動画も必ず旅行の1週間後に投稿するようにしている。誰にも駐車場所がバレないようにするためよ。なのに、どうやって私のいるところがわかったの?人感センサー付きのライトが外にあるけど、それは光っていない。どうして?

もう一度ノックが聞こえた。軽く、しかし執拗に。何か良いことが起こるはずがない。心臓はドキドキし、胃はキリキリしてきた。緊張しながら、私は携帯電話に手を伸ばした。指がもつれて、携帯をフロアマットに落としてしまった。その音が雷のように大きく聞こえ、顔を上げると、思わず悲鳴を上げそうになった。

子供の顔が窓に押し付けられていた。青白い肌、黒い髪、大きく見開かれた目。しかし、何かがおかしい。ガラスは奇妙に反射していたけど、子供の瞳には輝きがなかった。ただの黒。真っ黒。

私は息を詰まらせた。本能的に、おかしいと思った。なぜこんなところに子供がいるの?ここは幹線道路からとても遠い。子供がいるような場所じゃない。

子供は動かない。まばたきもしない。

その時、またノックが聞こえた。

私は音の方に顔を向け、ゾッとした。二人目がいた。今度は小さな女の子で、バックドアのそばに立っていた。同じ黒い髪。同じ虚ろな黒い目。

私は簡単に怖がるような人間じゃない。男たちがバンに侵入してくるような駐車場で寝たこともある。オオカミが周りをうろついているような場所でキャンプしたこともある。アドレナリン中毒ではないが、こんなことは慣れっこだと思っていた。

しかし、これは全く違う怖さだった。

私は手を低く保ち、ナイフを探しながら、呼吸を落ち着かせようとした。悪いことのように聞こえるかもしれない。ただの子供たちでしょ?でも、あなたたちにはわからないの。やつらは何かおかしい。

窓の男の子がようやく口を開いた。「ナカ二イレロ」

6文字の言葉。感情も抑揚もない。ただの平坦な要求。私は首を横に振った。髪の毛が逆立った。

彼は再び言った。今度はもっと執拗に。「ナカ二イレロ」

女の子が再びノックした。今度はもっと強く。ドアがガタガタと音を立てた。

子供じみた反応だったが、私は毛布を掴んで肩にかけ、重い綿の下に身を縮めた。まるで盾のように。ナイフを握りしめすぎて、指の関節が痛くなった。どれくらいの時間そうしていたのかわからない。怖くて息もできなかった。ドアを開けたら、二度と閉められないと思った。

突然、やつらは後ろに下がった。夜の闇が再び窓を覆った。安堵を感じる間もなく、新しい音が聞こえて悲鳴を上げそうになった。運転席側のドアを叩く音だ。私は振り返った。

三人目の子供がいた。新しい子供だ。少し背が高い。せいぜい12歳くらいだろうか。運転席側のドアから数センチのところに立っていた。他の二人とは違い、彼はニヤニヤ笑っていた。ドアハンドルがガタガタと揺れたが、私はドアをロックしたままにした。

笑みが広がった。「ナカ二イレロ」

また同じ6文字の言葉。質問ではなく、要求だ。

いつ鍵を掴んだのか覚えていないが、気がつくと手に持っていた。イグニッションを回した。ダッシュボードが点灯した。心臓がドキドキした。必要なら、やつらを轢き殺す。しかし、エンジンはかからなかった。もう一度キーを回した。

何も起こらない。

何も。

バッテリーは正常。ガソリンも満タン。今日の午後もエンジンは普通にかかった。しかし、今はかからない。

そして、子供たちはまだそこに立っていた。見つめて、笑っていた。私は震える指で携帯電話に手を伸ばした。圏外。その時、彼らは窓を再び叩き始めた。すべての窓。すべてのドア。ゆっくりとした、規則的なリズム。トントン。トントン。トントン。

いつの間にか気を失っていたようだ。気がつくと、バンは光で満たされていた。太陽の光だ。私はナイフを握りしめたまま目を覚ました。ドアはロックされていた。鍵はまだイグニッションに刺さっていた。携帯電話は膝の上にあった。バッテリーは23%。

私は勇気を出して外を見たが、子供たちの姿はなかった。運転席側のドアを開けると、心臓がドキドキした。空気は湿った土と松の匂いがした。美しい、霧のかかった朝だった。タイヤは無傷。土には足跡もなかった。まるで、やつらは最初からいなかったかのようだった。

でも、やつらはいた。絶対にいた。そして、やつらはまだそこにいることもわかっている。なぜなら、バンがまだ動かないからだ。そして、今夜、またノックが来るのではないかと心配している。

出典:https://www.reddit.com/r/nosleep/comments/1j1tmg6/ive_been_living_the_vanlife_for_a_while_now_but/

fullmoonfiction.com

殺人犯の護送車を運転してた。この事件までは。

マジで洒落にならん話。俺、昔、州の仕事で、白バンに乗って警察官とヤバい連中を高セキュリティ刑務所に運んでたんだわ。連れてくのはシリアルキラーとか性犯罪者とか、マジでクソみたいな奴らばっかり。バンは8人乗りで、前2席と後ろ6席が分かれてて、間に分厚い透明の板が入ってた。運転手の安全確保のためだ。連れてく奴らの罪状は特に教えてもらえなかったんだけど、片道1時間以上かかることもあって、連中の会話とか独り言で大体どんな奴らか分かった。叫んだり、警察官に襲いかかったり、逃げようとしたりする奴もいたけど、バンはそういう奴らにも耐えられるように頑丈に作られてた。子供を虐待した奴もいたし、平気で自分の罪を自慢するようなクズもいた。警察官に懇願する奴もいたな。

最初はマジで吐き気がするほど嫌悪感しかなかったんだけど、10年もやってると何も感じなくなった。むしろ、誇りに思ってた。連れてく奴らが酷い奴らであればあるほど、当然の報いを受けさせることに快感を覚えてた。

そんなある日、大人しそうな若い男が逮捕されてバンに連れてこられた。

4人の警察官が一緒だった。仕立ての良い青いスーツを着てて、髪は艶のある茶髪で後ろに撫つけてた。30歳くらいに見えた。最初は署長か弁護士かと思ったんだけど、両手が後ろに回されてるのを見て分かった。俺の窓越しに軽く会釈して、後ろに乗せられた。警察官がシートを広げて座らせて、ドアが閉まった。俺はエンジンをかけた。

――
【警官A】「1時間ちょっとで刑務所に着く。トラブル起こす気はねぇな、坊や?」

【青スーツ男】「もちろんねぇよ。トラブルの対応をするに見合うほどの給料もらってねえだろ?(笑)」

何人かの警察官が鼻で笑った。

【警官B】「そりゃあ、その通りだな。」

【青スーツ男】「ちなみに、俺の叔父も昔警官だったんだ。皮肉だろ?
でも、叔父が警官になった頃は、署に50人いたのに、今じゃ10人くらい。税金が全部戦争に回ってるんじゃねぇかと思わざるを得ねぇぜ。」

【警官C】(隣に向かって)「ありえるな」

【青スーツ男】「弁護士にはそんなこと言ったら怒られるから言うなって言われたんだけど、この話を聞いたらお前らが俺を釈放してくれるんだろうって、俺、伝えてやったぜ。」

警官たちは大笑いし、バン全体が笑いに包まった。

――
俺は何がそんなに笑えるんだろうと不思議に思った。どんな罪を犯したか知らねぇが、この男は終身刑か死刑が待ってる身にもかかわらず、余裕で冗談を飛ばしてやがる。
冗談を言い続けて、警察官たちを手玉に取ってるようだった。
しばらくして、バックミラー越しに俺と目が合った。

【青スーツ男】「お前、いろんなイかれた話、聞かされてるんだろ?」

【青スーツ男】「想像してみろよ。Uberの運転手になって、乗客全部が殺人鬼だったら…そんな番組があったら、俺、毎日見ちまうぜ。
でもな、みんなを文字通り正義の裁きに送るって、ちょっと気持ちいいもんだろ?」

【俺】「ああ、お前みたいなクズをな…」

男はミラー越しに俺を見つめた。その瞬間、背筋に冷たいものが走り、口を滑らせたことを即座に後悔した。

【青スーツ男】「俺みたいなクズ?」

数秒間、沈黙が続いた。警察官同士が気まずそうに顔を見合わせた。俺は黙ってた。

【青スーツ男】「まぁ、じゃあ俺たちクズに乾杯ってことで。マジでさ。お前がいなかったら、みんな歩いて刑務所まで行かなきゃならねぇんだぜ。刑務所まで汗かきながら歩いて、着いてシャワーを浴びてたら他の奴らに犯されるような羽目には会いたくねえ。」

【警官D】「せっかく盛り上がってたのに場を壊しあがって。」とある警官がニヤリと言った。俺のことを言ってるんだと気づいた。

――
警官たちはまた笑い出した。その後、刑務所に到着するまで、彼らは政治の話や他の囚人の話、仕事に出られる時間などを話してた。
彼らは男と妙な一体感があった。警察官はいつもと全然違った。いつもは囚人を脅したり、自白させようとしたりするのに、この時はまるでみんなで大きな晩餐会をしているようだった。俺は仲間はずれだった。
もしかして、単に楽しんでるだけか、あるいは彼に圧倒されたことを認めたくなくて楽しんでいるふりをしていたのか…
まぁ、連続殺人鬼でも魅力的な奴もいるって話だしな。
結局、あんな雑談をしても、彼が何の罪を犯したのかは全く分からなかった。

――
到着すると、俺は彼らが降りれるように後部ドアを開けた。

【青スーツ男】「送ってくれてありがとう。運転気をつけて。」
彼は俺ににっこり笑い、連中は彼を刑務所へ連れて行った。

なんて生意気な奴だ、と俺は思った。そして運転席に戻った。

――
1週間後、シフトの合間に駐車場のあるカフェで休憩することにした。
ラテのLサイズを注文しようと列に並んでた時、ふと横を見ると心臓が一瞬止ま理想になった。
青いスーツを着た男がいた。先日のあの男が着ていたスーツとそっくりだった。
目を疑ったが、その男はアフロ頭で、新聞を読んでた。
スーツは同じかもしんねぇが、明らかに別人だ。ホッと息をついた。

ラテを注文してテーブルに座り、ゆっくりと飲んだ。青いスーツの男は窓際に座って、まだ新聞を読んでいた。しばらく見ていると、男は新聞をただ見つめているだけで、ページをめくっていないことがわかった。

――
席を立とうとした矢先、彼は新聞をたたみ、こちらを見上げた。
大きく威圧的な笑みを浮かべ、首を傾げながら、俺を見つめて首を指で横に切るジェスチャーをした。
しばらく無言で睨み合った。俺の心臓はドキドキし始めた。
そして、急に不安になって周りを見渡した。
カフェの中の客は皆、それぞれの世界に没頭していて、男が人前で俺にしたジェスチャーに気づいた人は誰もいないようだった。

――
俺は慌ててカフェを飛び出し、恐怖から歩くたびに後ろをちらちらと見る始末。
その時、彼はまるで俺の背後にいるかのように視線を固定し、脅迫が狙い通り効いてるのを楽しむかのようだった。

――
その後数日、足音やひっかく音、時には誰かが息をしてるような音が後ろから聞こえるようになった。
振り向いてもいつも何もない。
まるで自分が統合失調症になったんじゃねぇかと思った矢先、やはり何かが俺を狙ってるという疑念が現実になった。
週末、スーパーで野菜をカートに入れてると、青いデニムジャケットに花柄ワンピースを着た女性がこちらに向かって歩いてきた。
彼女はベビーカーを押しており、中には赤ちゃんがしっかり固定されてた。

女性はささやくように――
「背中、気をつけなさいよ」
と言い残して、こちらを通り過ぎた。

思わず振り返ると、彼女は振り向かずそのまま進んでいく。
電話もしておらず、赤ちゃん以外の人間も一緒にいなかった。
あの警告は、間違いなく俺宛だった。
まさか、青い服のカルト集団を怒らせちまったのか?

――
翌朝7時、俺はバンに乗って署に向かった。
交通は激しく、遅刻は覚悟の上。
急な崖沿いの長い道路に入り、右側には金属の手すりがある。
渋滞した道を、少しずつ進む中で、前にいた白いバンの後部のバンパーに貼られたステッカーに目を奪われた。

そこには『イイ1日になるぜ!』と、笑顔の太陽が描かれてた。

やっと交通が流れ出し、左側から車が合流してくる交差点に差し掛かった。
交差点手前に信号機があって、俺は時計を見た。
「赤になんねぇでくれ、赤になんねぇでくれ…」と心の中で祈る。
まるで宇宙が俺に逆らってるかのように、信号は黄色に、そして俺の前のバンが信号を通過した瞬間、赤に変わった。
ふざけんな。俺は急ブレーキを踏み、前を見上げた。

――
一瞬しか見えなかったが、突然どこからともなく、巨大なトラックが左側から激しく前のバンに衝突していた。
轟音と共に、痛々しいクラッシュ音が鳴り響き、俺は凍り付いた。
両車は手すりを突き破り、崖の縁から転落していった。

信号はその後緑に変わったが、俺はその場で震えながら動けずにいた。
数分前にバンがいた場所の前には、ぽっかりと空いたスペースが広がっていた。
周りの車の窓越しに、恐怖におののいて警察に通報してる連中が見えた。
やがて俺は我に返り、完全に状況を把握できぬまま、無表情で脇道へ進み、そこで車を停め、署の連中に今起こったことを伝えた。

――
数日後、両方の運転手が衝撃で即死してたことが分かった。
トラックは時速90マイル(約145km/h)で、バンの運転手側に激突し、一瞬で彼を潰してしまった。
最初はただの不運な事故だと思われたが、遺体を調べると、トラックの運転手の携帯がフロントガラスにくっついたスマホルダーの中にあったことがわかった。
スマホを解析すると、事故当時、トラックの運転手はナビアプリに連動した追跡装置で、俺のバンを追跡してたことが判明したのだ。

警察は俺のバンを隅々まで調べ、なんとあの青スーツ男が乗ってた、バックシートの下にその追跡装置が貼り付いてるのを発見した。
(あの男が刑務所へ向かう際に座った席の下だ。)

連中から説明を受けた途端、俺は全てを悟った。
あのくそったれは、ポケットとかからこっそりそれを出し、俺があいつを怒らせた瞬間にバンの内側に貼り付けたに違いねぇ。

結果、あの男は悪名高い地下武器ディーラーだったらしい。
銃を没収された連中(ほとんど正当な理由で)の間では、彼が武器の供給源として知られており、彼が捕まった時には警察に対する激怒が巻き起こった。
どうやら、その連中の間にはカルト的な信奉者がいて、全身青い服を着るのが彼への支持の形だという。
政治的な話はここでは割愛するが、要するにこの野郎は裏でかなりのコネを持っていて、隠れて多くの支持者がいた。そして、俺がその次の標的になってたんだ。

俺は、あの青スーツ男がどうにかして、俺の白いバンに付いてた追跡装置の存在を自分の仲間に伝え、俺を狙うよう指示したに違いねぇと思った。
偶然にも、俺の直前に走ってた別の白いバンがあった。
彼らは、そのバンの運転手を俺と間違えたに違いねぇ。
もしあの信号があの瞬間に赤になってなかったら、俺が狙われてたはずだ。
あの日、俺は惨めな最期を迎えるところだった。

――
その日の午後、事の次第を知った俺は即刻仕事を辞め、荷物をまとめ、新天地へと引っ越した。
それ以降、何度も転居してるが、あのパラノイアは今も抜けねぇ。
おそらく、残りの人生ずっと付きまとむだろう。
誰かが青い服を着てるのを見るたび、あのバンが崖から転落するのを目の当たりにした時の恐怖が蘇る。
本来なら、あの日の惨劇は俺の番だったはずだ。
かつてはぶっきらぼうで正直な男であることに誇りを持ってたが、今ではずっと用心深くなった。

――
そして、ひとつだけ確かなことがある。
今では誰かがしょぼい冗談を言うと、俺は必ず笑うことにしている。